最近、SNSで
「トリミングナイフが使えなければプロ失格」
「競技会や試験に出ないなら必要ない技術」
といった意見や、それに対する反論を目にしました。
議論が起きること自体は悪いことではありません。
ただ、その多くが
技術を○×で切り分ける方向に進んでいるように感じ、
少し違和感を覚えています。
トリミングは本来、犬の生活を支える技術
トリミングやグルーミングは、
見た目を整えるためだけのものではありません。
被毛の通気性を保つ
皮膚トラブルを予防する
日常生活を快適にする
そうした「暮らしの質」を守るためのケアです。
だから本来、
技術や道具は
「評価されるためのもの」ではなく、
犬にとって何が合理的かを考えた結果として選ばれるものだと思っています。
トリミングナイフは「抜くだけ」の道具ではない
ナイフというと
「被毛を抜く道具」というイメージが先行しがちですが、
実際の現場ではそれだけではありません。
ナイフは
梳いたり
毛量を調整したり
被毛の流れを整えたり
状況によっては切るように使ったり
仕上がりと犬の状態を見ながら使い分けるための道具です。
犬種や毛質によっては、
シザーやバリカンだけで仕上げるよりも
皮膚への負担が少なく、
丸刈りのリスクを減らせることもあります。
犬種によっては「使った方が合理的」な場面がある
特に
コッカースパニエルなどの犬種では、
被毛構造や皮膚の状態を考えると、
ナイフを含めた調整が有効な場面があります。
これは
ショーに出るかどうか
競技会に出るかどうか
とは別の話です。
家庭犬であっても、
犬種としての構造は同じ。
生活の中で無理が出ないケアを選ぶことが大切です。
「使えない」の背景にある技術以外の問題
ナイフが
「使わない」のではなく
「使えない」
状況が増えている背景には、
技術以前の問題もあります。
毛質が既にナイフに向かない
皮膚が不安定
触れる機会そのものがない
教える側もリスクを避けざるを得ない
さらに言えば、
ブリーディングや流通の段階で
ナイフを前提に考えられていない犬が増えている現実もあります。
これは個人の努力不足ではなく、
業界全体の構造の話だと感じています。
技術は誇るものでも、人を測る物差しでもない
私は30年以上、ナイフも使ってきました。
それは
「使えることを誇るため」ではなく、
「その方が犬にとって無理が少ない」
そう判断した場面があったからです。
技術は
誇示するものでも
誰かを見下す材料でもなく、
犬と人が無理なく暮らすための
引き出しの一つだと思っています。
まとめ
トリミングナイフは
資格や競技のための道具ではありません。
犬種
毛質
皮膚
生活環境
それらを見たうえで選ばれる
数ある選択肢の一つです。
○×で語れるほど、
現場は単純ではありません。