お客様や同業の方との会話の中で、よく話題になることがあります。
それが「今と昔、どちらが大変でしたか?」という話です。
私自身の答えは、比較的はっきりしています。
一言でいえば、今のほうが大変です。
昔は昔で不便でしたし、厳しい面もたくさんありました。
ですが、今は便利になった反面、別の意味で難しさが増していると感じています。
昔のブリーディングは「まずスタンダードありき」だった
昔は今ほど、「最初からペット用として割り切って作出する」という考え方は多くなかったように思います。
まずは犬種標準、いわゆるスタンダードを目指して作出する。
その中で、少し条件が足りない子が家庭犬として迎えられていく。
そういう流れが比較的自然だったように感じます。
また、今のようにミックスを意図的に作出することも、昔は今ほど一般的ではありませんでした。
もちろん、昔がすべて良かったと言いたいわけではありません。
ただ少なくとも、犬を生み出す以上は、その犬の一生に対して責任を持つこと、ある一定の基準をもって作出することが、もっと当たり前の感覚としてあったように思います。
ショードッグも、いずれは家庭で暮らす犬だった
ドッグショーについても、今とは少し感覚が違っていたように感じます。
ショードッグはショーのためだけに存在するのではなく、ショーの時期が終われば、その後は家庭で暮らす犬でもありました。
そのため、「ショー用」と「ペット用」を最初から強く分けて考える意味合いも、今ほど濃くなかったように思います。
ドッグショーも犬生すべてではなく、数年間の取り組みです。
ある意味では、習い事のような一時期の経験とも言えます。
だからこそ、犬種としての質や、その後の生活まで見据えて考えることが、今より自然に含まれていたのかもしれません。
昔のトリミング・グルーミングは「見て盗む」が基本だった
トリミングやグルーミングの世界も、今とは大きく違っていました。
昔はネットで簡単に情報を集めることはできませんでしたし、便利な道具も今ほどありませんでした。
ハサミや機材も、誰でも気軽に買えるようなものではありませんでした。
さらに、お金を出せば何でも教えてもらえる時代でもありませんでした。
基本は「見て盗む」。
自分で考え、失敗しながら覚えていくしかなかった。
うちでいえば、親子であっても何かを丁寧に教えてもらうことはほとんどありませんでした。
あるのは、ただただダメ出し。
正解は自分で考えるものだ、という前提でした。
今の時代から見ると厳しく感じるかもしれません。
でも、その中でしか身につかない感覚も確かにあったと思います。
この仕事は「他人が評価する仕事」である
ブリーディングでも、トリミングでも、グルーミングでも共通しているのは、
自分だけで完結しない仕事だということです。
自分が満足していても、それが相手にとって満足できるものとは限らない。
仕事にする以上、最後は他人の評価を受けることになります。
だから正解は一つではありません。
人の数だけ見方があり、人の数だけ求めるものがある。
自己満足だけでは通らない。
そこに、この仕事の難しさがあります。
今は便利になったぶん、本質が見えにくい
今は情報も多く、道具も豊富で、学べる場も増えました。
それ自体はとても良いことです。
しかしその一方で、
情報が多いからこそ迷いやすい
何が正しいのか、誰を信じればいいのか。
情報があふれている時代だからこそ、選ぶ力が必要になります。
道具が多いからこそ本質を見失いやすい
便利な道具は役に立ちます。
ただ、道具があることで「できているように見える」こともあります。
でも本当に大事なのは、その道具を何のために使うのかです。
学べる場が多いからこそ「分かったつもり」になりやすい
学びやすいこと自体は良いことです。
ただ、知識を聞いたことと、実際に現場で使いこなせることは別です。
理解したつもりになる危うさは、昔より大きいかもしれません。
今のブリーディングで問われること
今のブリーディングでは、より強く問われることがあります。
それは、
相場に合う仔犬を作るのか、
それとも
犬種として、生涯を共に過ごせる存在を作るのか
ということです。
その子の一生に対して、どのくらい責任を持てるのか。
どこまで先を見て考えられるのか。
ここが非常に大きいと思います。
今のトリミング・グルーミングで問われること
トリミングやグルーミングでも同じです。
ただ見た目を整えるだけなのか。
それとも、日々の生活を少しでも快適にし、健康維持の手助けまで考えるのか。
きれいに見せるだけなら、形は作れるかもしれません。
でも、本当にその子のためになっているかどうかは別問題です。
見た目だけで終わるのか。
暮らしの質まで支えられるのか。
そこに大きな違いがあります。
だから、今のほうが大変だと思う
昔は不便でした。
でも、不便だったぶん、覚悟を持って向き合わないと続けられない時代でもありました。
今は便利です。
だからこそ、形だけ整えることもできてしまう。
でもその中で、本当に何を選び、何を守り、何に責任を持つのか。
そこが昔以上に問われています。
だから私は、今のほうが大変だと思います。
結局は「命と暮らしへの責任」
ブリーディングも、トリミングも、グルーミングも。
結局のところ大事なのは、命と暮らしにどこまで責任を持てるかだと思います。
見た目だけで終わるのか。
売るところまでで終わるのか。
それとも、その先の生活や一生まで考えるのか。
便利になった今だからこそ、余計にそこが問われる。
そしてそれが、昔より今のほうが大変だと感じる理由です。